こんにちは(o^―^o)
前回の記事では、統計力学の基礎となる「ミクロカノニカルアンサンブル」について解説しました。
孤立系を想定し、状態数 $\Omega$ からエントロピーを導くアプローチは理論的な出発点として重要ですが、実際の物理系において状態数を直接計算することは数学的に困難を伴う場合が多くあります。
この計算上の困難を解消し、より実用的な解析を可能にするのが「カノニカルアンサンブル(正準集団)」です。
この記事では、系を熱浴と接触させる物理的設定から、統計力学における最重要関数である「分配関数」の導出までを解説します。
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ミクロカノニカルアンサンブル、カノニカルアンサンブル、グランドカノニカルのざっくり概要記事もあります。読みたい方はこちらから↓↓↓

それではやっていきましょう(^^)/
カノニカルアンサンブルの定義
カノニカルアンサンブルは、孤立系ではなく「温度 $T$ が一定に保たれた巨大な熱源(熱浴)」と接触している系を想定します。
イメージはこんな感じです↓

この系において、マクロな状態を指定する変数は以下の3つです。
- 温度 $T$
- 体積 $V$
- 粒子数 $N$
熱浴との間でエネルギーのやり取りが許されているため、着目する系自身のエネルギー $E$ は一定ではなく、熱的揺らぎによって確率的に変動します。
カノニカルアンサンブルの目的は、このエネルギーが揺らぐ系において、「あるミクロ状態がどの程度の確率で出現するのか」を明らかにすることです。
ボルツマン因子
系がある特定のミクロ状態 $i$(エネルギー $E_i$)をとる確率 $P_i$ を求めます。
着目する系を S、熱浴を B とします。
熱浴は系 S に比べて十分に大きく、両者を合わせた「全系(S + B)」は外部とエネルギーのやり取りをしない孤立系であるとみなせます。
全系の総エネルギーを $E_{\text{tot}}$ とすると、エネルギー保存則より熱浴のエネルギーは $E_{\text{tot}} – E_i$ となります。
全系は孤立系なので、ミクロカノニカルアンサンブルの「等重率の原理」が適用されます。
確率の基本である「(条件を満たす状態数) ÷ (全体の総状態数)」に従って $P_i$ を計算しましょう。
全系の総状態数を定数 $\Omega_{\text{total}}(E_{\text{tot}})$ とします。
一方、系 S が特定の状態 $i$ に確定しているとき、残りのエネルギーを受け持った熱浴 B の状態数は $\Omega_B(E_{\text{tot}} – E_i)$ です。
したがって、確率 $P_i$ は次のように表されます。
$$P_i = \frac{\Omega_B(E_{\text{tot}} – E_i)}{\Omega_{\text{total}}(E_{\text{tot}})}$$
分子の $\Omega_B$ を計算するために、ボルツマンの公式 $S_B = k_B \ln \Omega_B$ を用いて、状態数をエントロピーの指数関数で表します。
$$\Omega_B(E_{\text{tot}} – E_i) = \exp\left( \frac{S_B(E_{\text{tot}} – E_i)}{k_B} \right)$$
系 S のエネルギー $E_i$ は、熱浴の総エネルギー $E_{\text{tot}}$ に比べて極めて小さいため($E_i \ll E_{\text{tot}}$)、エントロピー $S_B$ を $E_{\text{tot}}$ の周りでテイラー展開して一次の項までをとります。
$$S_B(E_{\text{tot}} – E_i) \approx S_B(E_{\text{tot}}) – \frac{\partial S_B}{\partial E} E_i$$
熱力学の関係式 $\frac{\partial S}{\partial E} = \frac{1}{T}$ を用いると、次のように書き換えられます。
$$S_B(E_{\text{tot}} – E_i) \approx S_B(E_{\text{tot}}) – \frac{E_i}{T}$$
これを指数関数の中に戻して整理します。(ここで $\beta = \frac{1}{k_B T}$ は逆温度です)
$$\begin{align} \Omega_B(E_{\text{tot}} – E_i) &\approx \exp\left( \frac{S_B(E_{\text{tot}})}{k_B} – \frac{E_i}{k_B T} \right) \\ &= \exp\left( \frac{S_B(E_{\text{tot}})}{k_B} \right) e^{-\beta E_i} \\ &= \Omega_B(E_{\text{tot}}) e^{-\beta E_i} \end{align}$$
この結果を最初の確率 $P_i$ の式に代入します。
$$P_i = \frac{\Omega_B(E_{\text{tot}})}{\Omega_{\text{total}}(E_{\text{tot}})} e^{-\beta E_i}$$
ここで、式の前半部分 $\frac{\Omega_B(E_{\text{tot}})}{\Omega_{\text{total}}(E_{\text{tot}})}$ は、状態 $i$ に依存しない一定の定数です。
これを改めて定数 $C$ と置くと、確率は次のように書けます。
$$P_i = C e^{-\beta E_i}$$
この $e^{-\beta E_i}$ をボルツマン因子と呼びます。
系がエネルギー $E_i$ の状態をとる確率は、エネルギーが高くなるほど指数関数的に減少することが示されました。
分配関数 $Z$ の導入
残る課題は、先ほどまとめた定数 $C$ の正体を明らかにすることです。
すべての状態についての確率の和は 1 にならなければなりません($\sum_{i} P_i = 1$)。
これを計算すると以下のようになります。
$$\sum_{i} (C e^{-\beta E_i}) = 1$$
$$C \sum_{i} e^{-\beta E_i} = 1$$
$$C = \frac{1}{\sum_{i} e^{-\beta E_i}}$$
この分母に現れた「すべてのミクロ状態についてのボルツマン因子の和」を $Z$ と定義します。
$$Z = \sum_{i} e^{-\beta E_i}$$
これを用いると $C = \frac{1}{Z}$ となり、状態 $i$ が実現する確率 $P_i$ は最終的に次の美しい等式で表されます。
$$P_i = \frac{1}{Z} e^{-\beta E_i}$$
これがカノニカル分布です。
ヘルムホルツの自由エネルギーと熱力学量
カノニカルアンサンブルにおいて、分配関数 $Z$ は単なる定数ではなく、系のマクロな熱力学量を導き出すために機能します。
ここでは、内部エネルギー $U$ とヘルムホルツの自由エネルギー $F$ が、分配関数からどのように導出されるかを見ていきましょう。
内部エネルギー $U$ の導出
系の内部エネルギー $U$ は、マクロに見れば一定値ですが、ミクロに見ると各状態のエネルギー $E_i$ の「統計的な平均値(期待値)」として定義されます。
$$U = \langle E \rangle = \sum_{i} E_i P_i$$
この式に、先ほど求めたカノニカル分布 $P_i = \frac{1}{Z} e^{-\beta E_i}$ を代入します。
$$U = \sum_{i} E_i \left( \frac{1}{Z} e^{-\beta E_i} \right) = \frac{1}{Z} \sum_{i} E_i e^{-\beta E_i}$$
ここで、分配関数 $Z = \sum_{i} e^{-\beta E_i}$ を逆温度 $\beta$ で偏微分してみます。
合成関数の微分により、肩に乗っている $-E_i$ が前に出てきます。
$$\frac{\partial Z}{\partial \beta} = \sum_{i} (-E_i) e^{-\beta E_i} = – \sum_{i} E_i e^{-\beta E_i}$$
この右辺の形は、先ほどの $U$ の式に含まれるシグマ($\sum$)の部分と完全に一致しています。したがって、これを代入すると、内部エネルギーは対数微分($\ln$ の微分)の形に美しくまとまります。
$$U = \frac{1}{Z} \left( -\frac{\partial Z}{\partial \beta} \right) = -\frac{\partial}{\partial \beta} \ln Z$$
このように、分配関数の対数をとって $\beta$ で微分するだけで、系の内部エネルギーが計算できることが示されました。

ヘルムホルツの自由エネルギー $F$ の導出
ミクロカノニカルアンサンブルにおいて状態数 $\Omega$ がエントロピー $S$ と結びついたように、カノニカルアンサンブルでは分配関数 $Z$ がマクロな熱力学量であるヘルムホルツの自由エネルギー $F$ と直接結びつきます。
これを導出するために、統計力学における一般的なエントロピーの定義(ギブスのエントロピー公式)を用います。
$$S = -k_B \sum_{i} P_i \ln P_i$$
この式に $P_i = \frac{1}{Z} e^{-\beta E_i}$ を代入して展開します。まず対数の性質を使って $\ln P_i$ を分解します。
$$\ln P_i = \ln \left( e^{-\beta E_i} \right) – \ln Z = -\beta E_i – \ln Z$$
これを元の $S$ の式に戻して整理します。
$$S = -k_B \sum_{i} P_i (-\beta E_i – \ln Z)$$
$$S = k_B \beta \sum_{i} P_i E_i + k_B \ln Z \sum_{i} P_i$$
ここで、$\sum_i P_i E_i$ は先ほど確認した通り内部エネルギー $U$ です。
また、確率の総和は $\sum_i P_i = 1$ であり、$\beta = \frac{1}{k_B T}$ であることを使って式を書き換えます。
$$S = k_B \left( \frac{1}{k_B T} \right) U + k_B \ln Z \cdot 1$$
$$S = \frac{U}{T} + k_B \ln Z$$
この両辺に $T$ を掛けて移項します。
$$TS = U + k_B T \ln Z$$
$$U – TS = -k_B T \ln Z$$
熱力学におけるヘルムホルツの自由エネルギーの定義式は $F = U – TS$ です。したがって、最終的に以下の関係が導かれます。
$$F = -k_B T \ln Z$$

ひとたび分配関数 $Z$ を計算して自由エネルギー $F(T, V, N)$ を求めてしまえば、あとは偏微分を用いるだけで他の熱力学量も系統的に導出できるようになります。
この仕組みは、数学的な「全微分」と熱力学の公式を比較することで簡単に理解できます。
まず、自由エネルギー $F$ が温度 $T$、体積 $V$、粒子数 $N$ の関数であることを踏まえ、数学的に微小な変化 $dF$ を展開すると次のように書けます。
$$dF = \left(\frac{\partial F}{\partial T}\right)_{V, N} dT + \left(\frac{\partial F}{\partial V}\right)_{T, N} dV + \left(\frac{\partial F}{\partial N}\right)_{T, V} dN$$
一方で、熱力学の法則から導かれる $F$ の基本関係式は以下の通りです。
$$dF = -S dT – p dV + \mu dN$$
これら2つの式は全く同じ物理量 $dF$ を表しているため、各変数($dT, dV, dN$)の係数は完全に一致しなければなりません。
係数を比較することで、分配関数から導いた $F$ を微分するだけで、以下の物理量が求められることがわかります。
- エントロピー $S$: $S = -\left(\frac{\partial F}{\partial T}\right)_{V, N}$
- 圧力 $p$: $p = -\left(\frac{\partial F}{\partial V}\right)_{T, N}$
- 化学ポテンシャル $\mu$: $\mu = \left(\frac{\partial F}{\partial N}\right)_{T, V}$
まとめ
この記事では、カノニカルアンサンブルの基礎を解説しました。
- 系が熱浴と接触し、エネルギーが揺らぐ設定($T, V, N$ 固定)を導入する。
- 全系の状態数のテイラー展開から、ボルツマン因子 $e^{-\beta E_i}$ を導出する。
- 分配関数 $Z = \sum e^{-\beta E_i}$ を計算し、自由エネルギー $F = -k_B T \ln Z$ と結びつける。
- 微分操作によって、マクロな熱力学量を導出する。
カノニカルアンサンブルは、計算の簡便さと物理的な実用性から、統計力学において最も標準的に用いられる枠組みです。
次回の記事では、エネルギーだけでなく「粒子の出入り」も許容する「グランドカノニカルアンサンブル(大正準集団)」について解説します。
それではまた(^^)/~~~

